背景
骨粗鬆症は、骨の量と質が低下し、骨折しやすくなる病気です。 加齢が主な原因の一つであり、世界で約2億人が罹患していると推定されています。 大腿骨と股関節をつなぐ大腿骨頸部や椎骨が骨折すると、寝たきりとなり、介護の必要性や生活の質、全身の機能の低下、死亡率の上昇を招きます。 このバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度が低下し、骨粗鬆症になります。 この病気の治療薬としていくつかの薬がありますが、骨形成を促進する薬は、骨吸収を抑える薬に比べて圧倒的に少ないのが現状です。 骨を再生する治療薬の開発が望まれています。
サーチュインは、老化、ストレス反応、代謝の様々な分野、その他いくつかの身体機能の制御に重要な役割を果たす酵素です。 哺乳類では、SIRT1~SIRT7の7種類のサーチュインが存在します。 SIRT7は、がんや脂質代謝に関与することが報告されていますが、骨組織や骨の老化における役割は不明でした。
研究内容
熊本大学の研究者らが行った最近の実験で、SIRT7遺伝子欠損マウスは骨量が減少していることがわかりました。 骨の形態分析から、骨形成と骨芽細胞(骨を作る細胞)の数が減少していることがわかりました。 さらに、骨芽細胞特異的SIRT7欠損マウスを用いて同様の結果を得、(骨芽細胞特異的)SIRT7が骨形成に重要であることを示しました。
骨粗鬆症を持つ人では骨形成が低下することが多く、このメカニズムはよく分かっていませんでした。 研究グループは、そのメカニズムを明らかにするため、若齢マウスと老齢マウスの骨格組織におけるサーチュイン(SIRT1、6、7)の発現を比較し、SIRT7が年齢とともに減少していることを発見しました。 そして、この高齢の検体におけるSIRT7の減少が、骨形成の低下と関連し、さらには骨粗鬆症の原因になっているのではないかと考えました。
次の実験で、SIRT7の発現が低下した骨芽細胞(in vitro)を培養すると、正常な骨芽細胞の培養に比べて骨様塊の形成が著しく抑制されました(石灰化ノジュール)。 さらに、骨芽細胞の分化を示す遺伝子の発現も低下しており、SIRT7が骨芽細胞の分化を制御していることが明らかになりました。
骨芽細胞SIRT7が骨芽細胞の分化を積極的に制御するメカニズムを明らかにするため、骨芽細胞の分化に必須の遺伝子発現制御因子の転写活性について調べました。 その結果、SIRT7遺伝子を欠損した骨芽細胞では、前骨芽細胞から成熟骨芽細胞や骨細胞への分化を誘導することが知られているSP7(オステリックスとも呼ばれる)の転写活性が著しく低下していることが分かりました。
さらにSP7/オステリックスの転写活性を高くするには、SIRT7がSP7/オステリックス蛋白の368番目のリジン残基を脱アシル化することが重要であることにも気づきました。 つまり、SIRT7は、SP7/Osterixを化学修飾する(368番目のリジン残基を脱アシル化する)ことで、SP7/Osterixの転写活性を高めている。 さらに、SIRT7の発現が低下した骨芽細胞に、SP7/Osterixの368番目のリジンを脱アシル化した変異型SP7/Osterixを導入することにより、石灰化結節形成における骨芽細胞の機能を回復させることができたという。
研究グループは、今回の結果が、SIRT7が遺伝子発現制御因子SP7/Osterixの転写活性化に重要な脱アシル化酵素として、骨芽細胞の分化に不可欠な新しいメカニズムを示したと確信しています。
「高齢者などのSIRT7が十分に働かない状況では、SP7/Osterix転写活性が低いため骨芽細胞の形成が損なわれます。 この骨形成の低下が骨粗鬆症と関連していると考えられます」と研究リーダーの熊本大学の吉澤達也先生は述べています。 “我々の結果、SIRT7 — SP7 / Osterixの制御経路は、骨形成の低下や骨粗鬆症を治療するための新しい治療薬の有望なターゲットであることを示しています。”
この研究は、2018年7月19日にNature Communicationsにオンライン掲載されました。
※注:この研究の成果は、熊本大学、鶴見大学、東京医科歯科大学(日本)とマックスプランク研究所(ドイツ)による共同研究の結果であり、
は、この研究の成果であります。